Artisan-音の職人
かすてら音楽夜話Vol.75
<パリのとある教会>K-7/DA16-50mm
本日はスクムビットさんのリクエストにお応えして、山下達郎を取り上げます。
山下達郎はなんとワタクシの大学の先輩にあたりますが、入学3か月で中退して1973年にSugar Babe(シュガーベイブ)というグループでデビューしました。フォークロック系のグループで、大貫妙子も在籍していました。
たった1枚のアルバム『Songs』(1975年)は、大瀧詠一(プロデュースや作曲時の名前。アーティスト名義は「大滝詠一」)のナイアガラレーベルから発売されましたが、まったく売れません。大瀧詠一自身も1980年のアルバム『A Long Vacation』や、シングル「君は天然色」の大ヒットで知られますが、それまではかなり趣味的な曲作りを行い、ナイアガラレーベルもほとんどが大瀧自身の嗜好に合ったような人たちで占められ、ほとんど売り上げを気にしない太っ腹なところがありました。
山下達郎はそのデビュー前に自分のやりたいことを『Add Some Music To Your Day』という自主制作盤で表現していました。これが、伊藤銀次経由で大瀧のもとに伝わり、レコードデビューにこぎつけたといえます。
とはいえ、このバンドでは活動困難になり、レコードデビューからわずか1年余りで解散します。
ただ、知る人ぞ知るバンドとして、その後のバラエティ「オレたちひょうきん族」のエンディングテーマとして、「Down Town」(作詞:伊藤銀次、作曲:山下達郎)をepoがカバーしてます。ご存じの人も多いでしょう。リンク1。
シュガーベイブ解散後、達郎はソロに転じますが、アルバムの質は高かったもののこれまた売れません。とはいえ、オリコンの週間アルバムチャート100位以内には入っていたので、コアなファンはいたはずです。その間にプロデュース、エンジニアリング、楽曲提供等の楽曲制作力を高め、「愛を描いてーLet's Kiss The Sun」(1979年)がJALの沖縄キャンペーンのタイアップにつながります。
そして、1980年「Ride On Time」が日立マクセルのCMとタイアップし、達郎自身も出演しました。これがオリコンシングル週間チャート3位となり、一般的に認知されたと思います。同曲収録のアルバム『Ride On Time』もオリコンアルバム週間チャート1位に輝きました。
1982年には竹内まりやと結婚します。いやあ、当時はこのニュースにショックでしたね。山下達郎の風貌ですが、ロン毛にルックスもいまひとつ。相手の父親は大社(現出雲市)町長で、アメリカに交換留学もしたほどの才媛かつ出雲大社前の老舗旅館のお嬢様なんですよ。
でも、当時所属レコード会社が一緒で、楽曲提供からアレンジ、バックミュージシャンとしての起用などから達郎の音楽的才能に惹かれたものだったらしいです。
この後もコンスタントにアルバム制作を続けていましたが、再び注目されるようになったのはシングル「クリスマス・イヴ」がJR東海のキャンペーンとタイアップされるようになってですね。リンク2。
「クリスマス・イヴ」は1983年のアルバム『Merodies』からのシングルカットですが、JR東海のキャンペーンは1989年です。もともと、クリスマスシーズンにはひっそりと「クリスマス・イヴ」のシングルを再発していたのですが、この年ついにオリコンシングル週間チャートで1位を獲得します。
山下達郎はRCAからアルファムーンに所属レコード会社を移籍しています。デビューした当時はCDは存在せず、アナログ録音のLPやEPでした。これをさかのぼり、アナログをデジタル化したり、それでも満足せず、CDとして発売したものも含めデジタルリマスターし、再発するという作業に没頭するようになります。RCA時代のものも手掛けています。こうなると、完璧さを求めていく「音の職人」とでもいうような存在なんですね。
達郎自身の作品だけでなく妻の竹内まりやのアルバムもデジタルリマスターまでしてのけるのですから、こだわりは人一倍です。そのため、自身のアルバム制作はどんどん少なくなっていくのです。『Artisan』から『Cozy』までが7年の空白。次の『Sonorite』も7年。次の『Ray Of Hope』も6年。そして、2011年以来ニューアルバムは発売されていません。とはいえ、シングルやタイアップもあるので、忘れたころにアルバムがリリースされる可能性はありますね。
山下達郎の楽曲提供はかなりあるのですが、最も有名なのがKinKi Kidsに提供した「硝子の少年」(作詞:松本隆、作曲:山下達郎)でしょうかね。ちなみに達郎はスマイルカンパニーという事務所に所属していますが、元社長が小杉理宇造という人物で、その後ジャニーズエンターテイメントの社長に就任しています。つまりは関係が深いのです。
この「硝子の少年」ですが、ジャニー喜多川氏に相当プレッシャーをかけられたそうです。つまりはチャート1位を取れと。でも、見事に1位を獲得します。個人的な意見ですが、ジャニーズのタレントの中でKinKi Kidsはかなり音楽的な才能があると思っています。歌もうまく、「Love Love愛してる」などで、一流ミュージシャンたちにもまれ、ギター演奏や楽曲も作ることができるようになったんですね。SMAPや嵐にはないものを持ってます。
そんなキンキとの比較ですが、達郎がセルフカバーしたものと聴き比べてください。これは腐っても達郎です。リンク3。
山下達郎のライヴに数回行ったことがあります。ライヴの掟みたいなものがあるんですよ。すなわち、オープニングから客は席を立ちあがらない。ラストくらいではさすがに総立ちになるんですが、サンデーソングブックなどで繰り返し本人から自身の音楽を良い環境で聴いてほしいというあらわれですね。同時に曲に合わせて客が歌うことも控えます。これまた上記の理由のひとつです。
また、MCもすごく達者で時には30分近く喋るんです。これまた、曲の制作過程や曲の背後にあるものを説明しようということのあらわれですね。とにかく音に妥協のない達郎らしさがここにあると思います。
そして、達郎は自身の著作権に対して断固たる姿勢を取っています。YouTubeには公式チャンネルはありません(竹内まりやも同様です)。いわば、一個人がアップしたものは違法アップロードで著作権違反となるため、見つけられ次第削除になるんです。これは、音楽で生活している人にとって至極当たり前のことです。ま、このブログとしては残念なんですけど。そのため、今回リンクを貼っておきながらブログ記事に乗せていないのはすべて個人がアップしたものなんですよ。その点、ご了承ください。
それでも、ワーナーの公式チャンネルで唯一山下達郎の楽曲がアップされていたのを発見しました。それを聴きつつ、本日の締めとさせていただきましょう。
引き続きリクエストお待ちしています。
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コメント
早々にリクエストにお応えいただきありがとうございます。
才能があり信念が強い人なんだなと思います。
マニアックな音楽や機材の話の内容にはついていけませんが、それでもこういう人の話は面白いですね。サンデーソングブックを聞いていてそう思います。
投稿: スクムビット | 2020年5月22日 (金) 20時31分
スクムビットさん。
頑張って書きました。
記事には書いてませんが、達郎は東京ドームや武道館でのコンサートはやったことはないんです。
当然需要はあるんですが、音場がよろしくない会場なので、あえてホール、東京ならNHKホール、大阪なら大阪フェスティバルホールくらいのキャパ2000人程度の会場でやるんですね。
このあたりも、音へのこだわりは人一倍です。
投稿: ヒョウちゃん | 2020年5月23日 (土) 09時54分
音のこだわりはすごいですね。東京の会場は中野サンプラザが定番でしたね。竹内まりやはこれからの音楽活動の相談をしているうちに、人としてとても信頼できる関係になったのが大きかったようですね。もうしばらく新しいアルバムよりツアー優先なのかな。このコロナ騒ぎでスタジオにこもっているかも?
投稿: しょうたく | 2020年5月23日 (土) 19時10分
しょうたくさん。
多分、自分の居住地や勤務先の関係でしょうが、わたしゃ達郎のコンサートではNHKホールだけで、中野サンプラザは行ってないんですね。
山下達郎の音楽的なフォローがあれば、至れり尽くせりですよね。
わたしゃ、最近はライヴをあまり見に行かなくなって、そのあたりのチェックも頻繁にしてないのですが、アコースティックライヴが予定されていて、コロナの影響で中止か延期になったみたいです。
達郎ライヴは知らずに見に行っても満足できるんじゃないすかね。
それほど完璧ですから。
投稿: ヒョウちゃん | 2020年5月23日 (土) 21時33分