一発屋ぶるーす・国内編
かすてら音楽夜話Vol.102
おそらく、2020年最後の更新かと思います。ラストを飾るのは音楽で締めたいなと。
「一発屋」という言葉があります。音楽界で申しますと、たった1枚のシングル曲が大ヒットするのですが、その後は何を出してもヒットしないというシンガーやグループですね。
典型的な例で申しますと、この人、子門真人ですかね。1975年に子供番組の中で使われた「およげ!たいやきくん」(作詞:高田ひろお 作編曲:佐瀬寿一)は、オリコン史上初となる初登場1位を記録し、売り上げ450万枚(500万枚という説もあります)とのことで、いまだにこの記録は破られておりません。
その子供番組はフジテレビでしたので、リリースされたのはキャニオンレコード(のちのポニーキャニオン)でした。この売り上げにより、キャニオンの本社は新しく建て替えられ、「たいやきビル」とも呼ばれたそうです。
シンガーやグループが収入を得るためには、メディアへのの出演、公演のギャランティなどなど、そして印税というものがあります。シングル1枚につき、わずか数円ということらしいですが、たとえ、本人が生で歌ったり演奏したりしなくとも、放送で使われると歌唱印税も発生するのですね。これは、カラオケにも適用され、それを厳格に適用できるようになったのが現在の通信システムを使ったカラオケなのです。
しかし、これには歌手やグループの印税放棄、すなわち買い取りというやり方もありまして、1曲いくらで事務所などと契約するのですね。この曲がこんな大ヒットするとは思わなかった子門真人は買い取りを選んだのだそうです。これ、印税契約をしていたらとんでもない収入が得られたはずなんですが。
買い取りの場合、比較的安定した事務所に所属していて、毎月給料をもらっているのだと思います。それでも印税だと結構入ってくるみたいですよ。あの、宮本浩次も初めて購入したクルマがポルシェですからね。
ちなみに、「およげ!たいやきくん」のカップリング(当時はB面)は、なぎら健壱が歌う「いっぽんでもニンジン」でした。印税というものは、それがB面であってもそのシングルが売れれば支払われるものなんですが、なぎらさんも買い取りにしていたそうです。
ちなみに、子門真人はこの曲以外にも「仮面ライダー」「ガッチャマン」など、特撮物・アニメの主題歌や挿入歌を歌っていましたので、「およげ!たいやきくん」の印税が入ってこなくとも、生活には困らなかったようです。つーか、けっこう歌一本で勝負できた人ともいえます。
さて、前振りが長くなりました。ここからが本題です。
狩人
1977年にデビューした狩人。兄弟デュオです。立ち位置左(向かって右)が弟。た立ち位置右が兄です。
デビュー曲の「あずさ2号」(作詞:竜真知子 作編曲:都倉俊一)でした。オリコンチャート4位という記録を残しています。この曲、厳密にいうと演歌の範疇でしょうが、曲はすごく流行りましたね。イントロのマンドリンがとても印象的で、当時はフルオーケストラの演奏が当たり前なところ、いきなり哀愁を帯びたメロディから始まるというのは、さすがは都倉俊一です。
このあたりは復活後の山本リンダのパーカッションを強調した「どうにもとまらない」、ポップス調の名曲「五番街のマリーへ」(ペドロ&カプリシャス)など、対応力の広さが「あずさ2号」にも生かされてますね。また、ピンクレディの一連の曲も手掛けていまして、筒美京平には売上等で及ばないものの、ワタクシとしては好感の持てる職業作曲家ですね。
古い話ですが、学生時代のコンパ等ではカラオケもないのに、ど素人の男二人が「あずさ2号」をほぼ歌うという悪夢のようなシーンが必ず展開されたほどです。
そして、具体的な列車名です。「あずさ」は当時の中央本線特急。2号というのは下り列車の偶数番号です。つまりは、新宿発白馬行き。現在もそちら方面には新幹線はないのですが、「あずさ」はなくなりました。
これ、同じ長野方面でも当時の上越本線・信越本線で長野市方面に向かうと「あさま2号」になるんですが、途中にオサレな軽井沢はあるものの、善光寺の長野とか、上田温泉あたりになると、哀愁とは逆にじいさんばあさんの旅行みたいになっちゃいますね。
「あずさ2号」の行先となると、松本、上高地、安曇野あたりが入ってきます。これ、海外旅行が一般的ではなかった当時としては、女子大生や20代独身OLが目指していたあたりともろ被りで、これもヒットの要因ではないかと。そのあたりは、作詞の竜真知子がしっかりと女性心理を受け止めて作ってますね。こちら、間違いなく詞先でしょう。
この後の狩人は二番煎じの「コスモス街道」がオリコン5位。その後失速します。それでも現在まで活動しているのですから、この1曲の影響は計り知れません。ちなみに、その後マネジメント会社の名称を有限会社あずさ2号(現在は離脱)とするほどでした。
円広志
現在はタレント活動が主体の円広志。この人は1978年のポプコンと世界歌謡祭でグランプリを取った「夢想花」(作詞作曲:円広志 編曲:船山基紀)でデビューしました。オリコン4位のヒットを飛ばしましたが、その後はまるでヒットに恵まれませんでした。
高音の伸びが素晴らしいですね。また、「♪とんで、とんで、とんで…」と、「とんで」の9回のリフレインと「♪まわって、まわって、まわって、まわる」の連続リフレインというサビは独創的で誰もやってない手法です。
ちなみに、円広志は大学在学中から卒業後もしばらくはロックバンドのヴォーカリストでプロデビューはしていなかったものの、ライヴハウスで活動していましたし、万博記念公園でも演奏したことがあるそうです。ちなみに、当時のローディ(楽器運搬やチューニング等を担当する人。大昔の芸能界ではボーヤ。)に世良公則がいたようです。
しかし、バンドは解散し、円広志は妻帯者ながらバイト生活へ。当時のバイト先にはコンサート会場の警備などをやっていたといいます。その会場では世良公則&ツイストの公演もあったそうで、完全に立場が逆転しました。
ちなみに、そのバイト先でヤマハの関係者に再会してポプコンへの道が開けたそうです。
ちなみに、ポプコンも世界歌謡祭もフジサンケイグループが関係していて、そのまま青田買いですから、所属はポニーキャニオンとなります。中島みゆき(「時代」)もツイスト(「あんたのバラード」)もポニーキャニオンですね。
その後、ヒットに恵まれなかった円広志ですが、ポニーキャニオンから演歌を作るよう要請がありました。それが森昌子の「越冬つばめ」(作詞:石原信一 作曲:篠原義彦=円広志の本名 編曲:竜崎孝路)でした。
円広志は遅れてきた元ロックスターともいえましょう。時代が追い付いていなかったんでしょうね。ポップスの「夢想花」が売れましたが、この時点で次がないことはわかっていたようです。それでも、現在もこの業界で生き残っているのですから、一発ヒットの影響はすごいですね。
堀江淳
1981年、「メモリーグラス」(作詞作曲:堀江淳 編曲:船山基紀)でデビューした堀江淳です。
北海道出身で札幌のライヴハウスで活動していました。1979年にソニーのオーディションに合格し2年後にデビューします。
ハイトーンな声、か細い中性的な印象の容姿などから話題を集め、オリコン3位、70万枚のセールスを記録します。オリジナルのシングルでは船山基紀のアレンジがムード歌謡あるいは演歌風であり、曲の第一声が「♪水割りを下さい」ですから、そういう風にとらえてしまう人も多かったのではないでしょうか。
一説によると、「おネエ疑惑」もあったようですが。この当時、そっち方面の人はほとんどマスコミ等に出ることはなく、たまに美輪明宏(当時は丸山明宏)やピーターが出てくるくらいで、「おすぎとピーコ」が市民権を得るのももっと後だし、フレディ・マーキュリーがあっちの人だとは誰も気づいていなかったくらいです(あくまでも日本ではです)。ま、堀江氏は結婚し娘もいるようなので、あっちの人ではないのですが、こうした中性的な容貌でも、若い女性はしっかりとファンになったのですね。
「メモリーグラス」は堀江淳のオリジナルで、シングルとは異なりテレビ番組などではギターをつま弾きながら歌っていたようです。
狩人がしっかり計算して女性心理を歌っていたものの、シンガーソングライターが女性目線で曲を歌うというのは、当時のマッチョな男性社会からすると、「ナヨナヨしてんじゃねぇよ」みたいに思われていたはずです。ということで、圧倒的にファンは若い女性でしょうね。炎上覚悟でいうならば一部ゲイの人とかですかね。
で、堀江淳氏ですが、その後のシングルはすべて不発。それでも現在はメジャーのレコード会社には所属しておらず、インディーズのようですが現在も活動中です。
何かのインタビューを読んだことがありますが、「メモリーグラス」の印税がやっぱりすごいんだそうで。現在も細々と印税収入があるのだとか。こちらはカラオケでしょうね。
こちら、「メモリーグラス」の替え歌ですが、現在の堀江氏が歌っております。クオリティ高いので採用しちゃいました。
まだまだ、一発屋いらっしゃるんですけどね。特にポプコン・世界歌謡祭でグランプリを取った曲は前評判が高いものの、不発に終わるケースも結構あるんです。ま、そのデビューシングルさえ、誰も知らないなんてことになりますけど。
レコード大賞を取っている人でも、尾崎紀世彦(「また逢う日まで」)やジュディ・オング(「魅せられて」)は厳密にいえば一発屋ですよねぇ。
年が明けたら、洋楽の一発屋行きます。
★2021年もかすてら音楽夜話は続きますよ。月に2本は書きたいです。でも、これ、めちゃくちゃ時間がかかります。心の琴線に触れましたら、イイねとコメントくださいまし。リクエストも待っております。
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コメント
一発屋って結構いますね。
松崎しげるなんかもそうかも(笑)
ところで、2020年もお世話になりました。
いろいろありがとうございます。
また来年もよろしくお願いします。
投稿: カルロス | 2020年12月31日 (木) 20時13分
カルロスさん。
コメントありがとうございます。
実はカルロスさん押しのクリスタルキングも取り上げようとしましたが、セカンドシングルもヒットしてますし、北斗の拳もありますので、押しとどめました。
松崎さんはCMソングでも頑張っていたんですよ。
こちらこそ、旧年中はありがとうございました。
このあと、ご連絡します。
投稿: ヒョウちゃん | 2021年1月 1日 (金) 00時38分