ユーミンの詞の世界
かすてら音楽夜話Vol.121
オープニングはおなじみ「中央フリーウェイ」でした。ユーミンこと松任谷由実ですが、独身時代の荒井由実名義です。
映像は1996年のもので、珍しくいつもはプロデューサーでブースで音の調整などを行っている、旦那の松任谷正隆がキーボード。斉藤ノブがパーカッション、鈴木茂がギターですね。
今回もlastsmileさんのお題で行きますが、この曲は中央自動車道を山梨方面に走っていくと現れる風景に、恋愛中の男女を女性の視線で語るというもの。非常にまっとうでストンと収まるプロの仕事です。
個人的なことを申しますと、中央自動車道には上り方面は稲城大橋から、下りは国立府中から利用するので、調布基地も府中競馬場もサントリー府中工場も縁がないのですが。また、近年では騒音対策として高速道の側面には防音壁が取り付けられてますので、クルマの正面方向くらいしか見えないことも付け加えておきます。でも、「♪この道は まるで滑走路 夜空に続く」という最後のフレーズは見事ですね。
といっても、今回取り上げるのは「中央フリーウェイ」ではないのです。
<バンバン>
画像はこのふたり、ばんばひろふみ(左)と今井ひろし(右)のフォークデュオです。デビュー時には3人組で現在演歌歌手の高山巌が所属していました。途中4人組になったこともあるようです。
当時わたしゃ中学生雑誌をとっていたのですが、芸能情報も載っていてバンバンが3人組であったことを知っておりました。それが後述する曲の時にはこの二人になっていたのを印象深く思っておりました。
なにしろ、ビートルズは4人。グループの絆は絶対だなんて思い込んでいたんですね。ま、ただの融通の利かないガキですけど。
でも、ゴールデンハーフが3人になったのはもっと早かったし、ドリフも荒井注の脱退・志村けんの加入ということもありました。が、それは芸能界のことで自分たちの音楽をやる、フォークやロックの人たちは固い絆で結ばれていたんだなと。
さて、バンバンですがなかなかヒットが出ず、思い悩んだばんばが才能を見抜いていた年下のユーミンのもとに頼み込んで書いてもらったのが次の曲です。しかも女性のユーミンが男性の主人公からの視線で描いたものです。
「『いちご白書』をもう一度」(作詞作曲:荒井由実 編曲:瀬尾一三)でした。
映像は1975年の「夜のヒットスタジオ」ですが、三波伸介が司会をやっているという貴重な映像。
この曲に登場する「♪いつか君と行った映画」が「いちご白書」で、アメリカのコロンビア大学の学園紛争を描いたものです。
曲の背景として日本の学園紛争があります。日本の学園紛争とはおそらく学費値上げに反対といったあたりから、学生の自治を求めて大学当局と実力行使を含めての長期にわたる闘争が繰り広げられていったものですかね。これが、日本のほとんどの大学で行われていたのですね。
学生でありながらヘルメットを被り教室の机や椅子でバリケードを設置して構内に立てこもる。最終的には警察が介入してきて闘争はむなしく終わるのですが。時代的にいうと、学園内の紛争は東大安田講堂事件の終息が1969年と1970年ごろまでということになりますか。
1947年生まれの沢木耕太郎は学園紛争のあおりを受けて横浜国大の卒業が7月にずれたといっております。1950年生まれのばんばはかろうじて立命館のキャンパスで体験してきたことかもしれません。
ですが、1954年生まれのユーミンはまだ立教女学院の高校生ですので直接の経験ではないはず…。お嬢さん学校ですし。ちなみに、学園紛争は高校にも風が吹いているんです。現在数は少なくなりましたが、制服なしという都立高校もあるのですが、これは高校生が勝ち取った自由であるときいております。ワタクシの卒業した高校がそうでした。
で、学園内の闘争はその後セクト化し三里塚に出かけちゃったり、学校とは無縁の話になっていきます。ヘルメットだけでなく、ゲバ棒や火炎瓶という武器も持って。ですが、大学構内には独特の文字を書いた立て看板が残り、戦う学生もまだまだ残っておりました。浜田省吾も神奈川大学正門前の下宿からセクト間の争いで学生同士がやりあう現場を見ていたということです。
「♪就職が決まって髪を切ってきたとき」順番が逆だろうという話もありますが。当時短髪の学生なんて運動部か応援団くらいですからね。ユーミンも多摩美のキャンパスでくすぶっている学生運動をある程度目撃し、美術系の学生がサラリーマンになるのを見てきたことでしょう。
さて、この曲はバンバンの最大のヒット曲となりました。時はすでに1975年でしたが、学生運動に身を投じていない人も共感するものだったのではないでしょうか。オリコンでは6週1位を獲得しました。ユーミン自身にとっても提供曲ではありましたが、初の1位を獲得しました。彼女自身の初めてのシングル1位は「あの日に帰りたい」ですが、「『いちご白書』をもう一度」の直後でした。
ユーミンはその他に大事な人を亡くした時の思いを込めた「ひこうき雲」など様々な詞の世界がありますが、今回はこれくらいで。
やあ、今回のlastsmileさんのお題、難しいです。
その他、アメリカ民主党支持者のBruce Springsteenが書いた「Born In The U.S.A.」が、ネオコンにアメリカ賛美と誤解されて大統領選挙の共和党候補者のテーマソングに取り上げられそうになったこと。同じ英語を話す人たちも内容が理解できなかったり。
大事な仲間をバイクの交通事故で亡くした思いをつづった佐野元春の「Rock & Roll Night」。
などなど取り上げれば限りなくあるのですが、小市民であるワタクシが書けば書くほど、筆者の思いとずれも生じて陳腐なものになっていくでしょうからね。
それでもいつか「これ!」という曲が現れたり、もっと確信をもって書けるようになったらやりましょうか。
お粗末様でした。
★完璧にやられましたけど、リクエスト、ご要望受け付けております。記事が気に入りましたら「いいね」をいただけると幸いです。また、コメントもお待ちしております。
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コメント
ヒョウちゃんへのコメントは数字がいつも越えられなくて
エラーになっっちゃうんです。
今日はうまくいくかな?
実家が桜上水だったので高井戸インターから乗るため
歌詞通りの景色をみつつ歌ってましたよ~
懐かしいです!
投稿: trintrin | 2021年7月 7日 (水) 09時31分
trintrinさん。
そういえば、学生時代に山梨の友人を訪ねて新宿から高速バスに乗って甲府に出向きました。
その時は「中央フリーウェイ」の雰囲気を味わえました。
余談ですが、その時同行した奴がアンチ巨人で、ずっとラジオ(デイゲーム中継)を聞いていて、いちいち江川が打たれたとか報告するのに興ざめでしたわ。
投稿: ヒョウちゃん | 2021年7月 7日 (水) 21時07分
面倒なお題をだしてしまい、負担をかけてしまったみたいですね・・すみません。
松任谷由実は荒井由実時代の曲が私的にはぶっ飛んでて、ヒョウちゃんも書いた「滑走路」のところも大好きです。
あと14番目の月の「次の夜から欠ける満月より14番目の月がいちばん好き」なんかの言葉の描き方は秀逸。
海を見ていた午後の「ソーダ水の中を貨物船がとおる」とかの表現もすごい。
あんな稀代の言葉の天才だった「荒井」さんは「松任谷」さんになって・・ちょっと残念でした。
で、肝心の「いちご白書をもう一度」なんですが、当時ばんばさんは音外して下手だったのが耳障りで、この彼らの歌はあまり好きではありませんでした。今あらためて当時の映像を見ても、やっぱり音程がズレて取れていませんね。わざと下手に歌っているとは思えないので。
でもユーミンの作った曲自体は印象的で、モチーフになった「いちご白書」の映画がどんなもんかそのあとに観ました・・が途中で飽きちゃいました。学生運動に馴染めなかったせいかも。劇中挿入歌は当時お気に入りだったニールヤングとか名曲が多かったので、それもあって観たんですがね。
この「いちご白書をもう一度」が出て5年後、呉田軽穂名義で作った「あの頃のまま」の関係がアンサーソングってわけじゃないけど、つながりを感じます。こっちはブレバタが歌っているので安心して聴くことができす、安心。
投稿: lastsmile | 2021年7月 9日 (金) 14時23分
lastsmileさん。
いえいえ、難しくはあるのですが、楽しかったです。
ワタクシ的にはユーミンは比較的音源を持っているほうなんですが、やっぱり知らない世界もかなりあるんですよね。
松任谷由実になって旦那がプロデュースに入り、より商業的になったわけですが、「Destiny」の「安いサンダル」とか、「灼けたアイドル」の「駅前でチラシ配ってた」あたりも秀逸だと思います。
ばんばひろふみは「いちご白書」以前から関西圏ではDJで人気だったようですね。
その後やっぱりソロになっちゃいましたが。
それに、学生運動にはlastsmileさんもワタクシも距離を置く世代なんで、共感は薄いですよね。
でも、あれだけ売れたということは、団塊の世代から少し後の人たちにはグッとくるものがあったのでしょうね。
「あの頃のまま」は一時FBEATでも話題になっていて、もしかすると、「いちご白書」その後みたいなことも話に上がっていたかもしれませんね。
ユーミンファンの方にそうした曲のセレクト集をMDでもらったことがあります。
ハードを失ってしまったのでもう聴くことができませんが、大事にとってあります。
投稿: ヒョウちゃん | 2021年7月10日 (土) 02時39分