ユーミンをしのいでいたかもしれない逸材
かすてら音楽夜話Vol.135
タイトル意味深ですが。
本日紹介するのは古内東子です。
デビュー以来、恋愛をモチーフに曲を発表してきた人で、かつては「新・恋愛の教祖」とも呼ばれました。「新」という言葉がつくということは元祖がおりまして、それはユーミンこと、松任谷由実(荒井由実)であります。
わたしゃ、都内とはいえ、結構不便な場所に住んでいまして、職場も近くだったもので、音楽を聴くだけならいいのですが、絶対的にライヴに足を運ぶという経験がほとんどありませんでした。ところが、1997年に世田谷区の某所に転勤となり、その環境が一変するのでした。
つまり、平日仕事を定時に上がれば、渋谷や新宿の会場に間に合うということです。そこで、チケットを確保したのが古内東子でした。まあ、その前にアルバムは確保していたんですけどね。
映像は「誰より好きなのに」(作詞作曲:古内東子、1996年)でした。オリコン35位のシングルですが、彼女はシングルで稼ごうというタイプではないというか、ファン層がお金が自由に使えるOL(当時の言葉です)ですから、アルバムのほうが売れてます。
ただし、プロモーションがよく付いておりました。
ライヴの話に戻ります。会場は代々木公園にあるNHKホールでした。なんと、会場はほとんどが20代の女性ばかりで、男性客は女性に連れてこられたパートナーといった具合でした。圧倒的に若い女性が多かったです。まあ、ほとんどがOLだったでしょう。
ユーミンが恋愛の教祖といわれたのは、スキーやドライブなどのシチュエーションに女性の恋愛観を反映したものです。しかも、ユーミンはバリバリのお嬢さん(呉服店の二女)であるにもかかわらず、当時のOLたちが「ちょっと頑張ってお金を貯めれば手が届く」ような状況をうたっていたため、共感をよんだのだと思います。しかし、ユーミンの恋愛観は女性が「待ち」というどちらかというとやや消極的な…当時の日本では普通のことですかね。
一方の古内さんの恋愛観は思いっきり女性の主観を表に出したもので、積極的に男性に働きかける女性を歌ったものでした。すでに日本のOLはユーミンの時代には手に入らなかったものを身に着けていたり、所有しております。とはいえ、男性に対してまだまだ積極的なアプローチは表立ってやりにくい…ところを古内さんが代弁してくれた、ということではなかったでしょうか。
「誰より好きなのに」の歌詞を引用します。サビの部分です。
♪やさしくされると切なくなる/冷たくされると泣きたくなる/この心はざわめくばかりで
♪追いかけられると逃げたくなる/背を向けられると不安になる/誰より好きなのに
これですよね。ぐっと共感する言葉ですね、女性にとっては。
映像は1997年のシングル「宝物」のライヴ映像です。「宝物」はアルバム『恋』収録で、タイアップはあったもののオリコンのアルバムチャート2位を獲得しました。翌年のアルバム『魔法の手』ではついにチャート1位を獲得しています。絶頂期ですね。
ま、ワタクシもこの『恋』から古内ワールドに引き込まれていったわけです。ライヴ映像は1997年のツアーだそうですので、ワタクシが見に行った内容とほぼ同じです。
客席では男性客が極端に少なかったのですが、歌の内容はともかく、ブラスもフィーチャーした極上のセンスのポップスに仕上がってますね。ちなみにオリジナル音源ともあまり変わらす、かなりクオリティの高い演奏です。
このツアーではアルバムのプロデューサーであり、アレンジャーでもある小松秀行がベースで参加してます。サウンド面でもオリジナルと同じように聴かせるという苦労があったでしょう。こんなに素敵なサウンドなのに、男性が極端に少ないということがとても残念でした。
ま、そのような古内さんですが、当時は引っ張りだこで、斉藤誠の『Nonber 9』というアルバムでは「曖昧な恋人」という曲でデュエットに起用され、ともさかりえの『むらさき。』というアルバムでは「恋してる」と「はじめてのサヨナラ」の2曲を提供。わたしゃ、『むらさき。』をニフティのFBEATという音楽フォーラムで勧められて購入したのですが、どうせアイドルだろうという概念を吹き飛ばす出来でございました。あのときのMさん、ありがとうね。
20世紀末、わたしゃ、確実に古内さんがユーミンの後継者になる可能性があると思っていたのですが。
21世紀になり彼女は徐々に失速します。やはりというか、恋愛観だけを前面に押し出すものだけでは飽きられてしまったのでしょうかね。前世紀末の古内さんはもしかしたら120%くらいのすっ飛ばし方をしていたのかも。彼女の曲の恋愛をうたったものは自身の経験がもとになっているとか。とはいえ、彼女の世界がユーミンのように大衆には降りてこなかったということでしょうかね。
彼女も試行錯誤し、洋楽のカバーアルバムを出したりしました。
そういう中で見つけた映像がありまして、最も最近にリリースしたデュエットのアルバムからのトークと収録風景です。
斉藤和義とのデュエット、「Don't Cry Baby」でした。もちろん、斉藤和義の作品です。
こういう感じで人のバックアップもできますので、恋愛観だけではなく、もっと普通のこと(『フツウのこと』というアルバムもあります)や、力を抜いたゆったりした曲も並べていけば、古内さんの「情念」に絡めとられず、男性もファンが増えていくんじゃないすかね。
まだ、49歳ですからね、ユーミンや竹内まりやとまでは申しませんが、その次くらいに位置するポジションまで上り詰めることも可能なんじゃないかと思います。
ご参考までに
古内東子『恋』アルバムレビュー
僭越ながらワタクシが昔書いたものです。よろしかったらご覧ください。
★今回より通常更新に戻ります。コメント、リクエスト、ご意見お待ちしております。
| 固定リンク | 2
「Music Talk」カテゴリの記事
- クセがすごいんじゃ!(2024.10.03)
- 追悼、J.D.サウザー(2024.09.21)
- ラズベリーズの光と影(4)(2024.09.17)
- ラズベリーズの光と影(3)(2024.08.29)
- ラズベリーズの光と影(2)(2024.07.28)
コメント
古内東子さんの曲、私のイメージって「横恋慕」なんです。すっきり爽やか恋愛ではなく、若干情念的な。私も好きでベスト盤の他、オリジナル版を3枚くらい聴きました。でもだんだん聴かなくなってしまいました。自分がもう恋愛とか関係のない別の世界に逝っちゃったからなんでしょうか。
あとずっと以前ヒョウちゃんがライブレポートで書いた東子ちゃんラーメンが気になってなぜか頭の片隅に覚えていました。
初めてテレビで観た時、意外と背の高い人だなぁが第一印象でした。お前は曲よりもそっち?って感じですが。映像で観た実際のお姿は素敵でした。
投稿: lastsmile | 2021年11月26日 (金) 18時54分
lastsmileさん。
ワタクシも『恋』からポニーキャニオン移籍くらいまでは、追い続けていたのですが、彼女の情念にやや飽きが来てしまって、その後は買ってないんですよね。
記事には書きませんでしたが、東子さんの歌う言葉ってそれほど不鮮明ではないのに、歌詞カードを開かないと意味がわからなかったりするのは、自分がサウンドに聴き惚れているってことなのかもしれません。
ですので、彼女の曲を流し続けていてもそれほど違和感はないんですけどね。
さて、東子ちゃんラーメン、2個買いました。
すぐになくなりましたが。
実態はインスタントの乾麺です。
しかも、東子さんの自筆イラスト付きで。
そのイラストもヘタウマ風で、彼女のイメージとはかなりギャップがありました。
東子さんはジャケ写などでも、肩をあらわにしたキャミソール姿だったり、けっこう自分に自信がある風に写っておりました。
とはいえ、話すと(当たり前だけど)親しみの湧きそうなキャラなので、ちょっぴり損をしているかもしれませんね。
投稿: ヒョウちゃん | 2021年11月26日 (金) 22時25分