天才・難波弘之のSense Of Wonder
かすてら音楽夜話Vol.183
ミケポスカフェでの音楽談義第3弾。
今回ご本人の画像がなくて申し訳ありませんが、日本を代表するキーボーディスト、難波弘之氏のお話です。
難波さんというと山下達郎のバックアップメンバーで、おそらくずっとツアーには帯同しているのではないでしょうか。もちろん、達郎のキャリア中盤くらいまでは収録にも参加していました。
余談ですが、最近の達郎はコンピューターなどの機械を多用していて、難波さんが曲の収録に関わることは減ってますね。ほかのツアーメンバーもそうだけど。でも、ライヴには欠かせない人です。
さて、カフェには難波さんのソロデビューアルバム、『Sense Of Wonder』(1979年)を持参いたしました。まあ、これをお聴きください。
あれ?どこかで聴いたような。
そう、山下達郎が初めてマスメディアに登場した(MaxelカセットテープのCM)アルバム『Ride On Tine』(1980年)にも収録された「夏への扉」(作詞:吉田美奈子 作曲:山下達郎 編曲:難波弘之)です。
ちなみに、難波さんの「夏への扉」のほうがわずかながらこの世に先に出たのです。したがって、達郎版はセルフカバーということになります。達郎は提供曲を自分で歌ってしまうということをしない人で、「ハイティーンブギ」も「硝子の少年」も自らのアルバムには収録しておりません。ま、もしそれらが入っていたら、アルバムのトータル性が崩壊するような気もしますが。ただし、「サンデーソングブック」では達郎版の「硝子の少年」をひそかに流したことがあります。
つまり、唯一のセルフカバーということで、達郎自ら認めるいい曲であるとともに、お互いを認め合う難波さんとの関係性もあるのでしょう。
そして、いうまでもなく、難波versionのヴォーカルは難波さんなのですね。なんとも素朴な声ですよね。「演奏はいうことなし。ヴォーカルはアマチュアレベル、でもほっこり」なんですが、生粋のヴォーカリストではないので、そこは目をつぶりましょう。
ところで、このアルバムは全10曲入りで、すべてにSF小説のタイトルが付いているのです。
「夏への扉」はロバート・ハインラインのSF。物語には冷凍睡眠とタイムマシンが登場します。そして、歌詞に登場するピートは主人公の飼い猫で、リッキーは共同経営者の義理の娘なんです。小説の概要はこちらをご参照ください。無機質に見えるSFの世界ですが、かなり情感の入った作品ですね。なんと、曲中に猫の鳴き声も入ります。
この作詞をした吉田美奈子氏は難波さんの意図をよく理解して書き下ろしたものだと思います。難波さんのクレジットはアレンジとヴォーカル、各種キーボードなんですが、間違いなくプロデュースもしています。達郎は美奈子さんの言葉にメロディをつけただけ。間違いなく「詞先」の曲です。
さて、難波さん、実は演奏活動以前に母校学習院の中学3年にしてSF短編「青銅色の死」で安倍能成文学賞(初等科から大学までのすべての学習院生対象の文学賞)を受賞し、音楽活動と並行してSF作品も書いているSF作家でもあるのですね。ハヤカワ文庫、コバルト文庫にも著作があるようです。
そして、アルバムタイトル、の"sense of wonder"とは、SF用語で、「作品に触れることで受ける、ある種の不思議な感動、不思議な心理的感覚の概念」なんだそうです。
こうしたことを理解したうえで、もう一度「夏への扉」を聴くと、難波さんのハインラインへの思いとリスペクトも感じられ、ヴォーカルがどうしたなどとは、気にならなくなります。
残念ながら今のところ、YouTubeには『Sense Of Wonder』の収録曲は「夏への扉」以外は上がっておりません。難波さんがのちに組むバンド、「センス・オブ・ワンダー」の楽曲はありますが、このアルバムとは関係ありません。
もし、このアルバムを手にすることがあれば、「虎よ!虎よ!」(作詞:亜蘭知子 作曲:長戸大幸 編曲:難波弘之)という曲も特筆ものです。打って変わっての力強いヴォーカルはゲストの織田哲郎でして、ちょこっと、Led Zeppelinの「Whole Lotta Love」(邦題「胸いっぱいの愛を」)が入ってます。
そして、トップ画像はアルバム『Sense Of Wonder』のジャケットの一部なんですが、これは手塚治虫の手によるもので、ライナーノートを中島梓(SF作家名は栗本薫)が書いてます。ワタクシの所有しているアルバムは廉価版なので、ライナーノートは省略されてました。
こんなものを見つけました。
娘さんとのコラボです。
音楽一家なんですね。難波さんの父はアコーディオン奏者で母は声楽家です。残念ながら、母親のDNAは難波さんには受け継がれなかったようですが、娘の玲里さんにはしっかりと受け継がれていますね。隔世遺伝。
難波さんの時代ですとヤマハが青田買いしてネム音楽院あたりにスカウトされそうなものですが、どうやらこの方にはその必要はなかったようです。それだけ、若くして天才的だったということですかね。
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