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2024年7月28日 (日)

ラズベリーズの光と影(2)

かすてら音楽夜話Vol.194

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ミケポスカフェでの音楽談義、ラズベリーズの2回目です。

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つうことで、セカンドアルバム『Fresh』を取り上げます。売れたということもありますが、やはり最もラズベリーズらしいアルバムです。それに、ここでファンになったということもありますし、一番好きなアルバムですね。

リリースが1972年11月。ビルボードHot200(アルバムチャート)で36位。彼らのアルバムで最も最上位にチャートインした作品となっています。

アルバムからは3枚のシングルがリリースされ、「I Wanna Be With You」(c/w「Goin' Nowhere Tonigt」)がビルボードHot100(シングルチャート)で16位。「Drivin' Around」(c/w「Might As Well」)はチャートインせず。「Let's Pretend」(c/w「Every Way I Can」)がシングルチャートで35位にチャートインしております。

また、このアルバムから担当楽器をエリックとデイヴの間で変更しました。つまり、エリックがベースからリズムギターへ。デイヴがリズムギターからベースへとなってます。

・短いスパンでのリリース

デビューアルバムが1972年の4月リリース。シングル「Go All The Way」が同年7月のリリースで、そんな短期間でフルアルバムを出せるのかという疑問。

まあ、当時はいい意味での音源の乱発。売れるものはどんどんやっちまおうという傾向があるにはあったと思います。これは邦楽アーティストの話ですが、ユーミンが半年に1枚アルバムを出していたのは、「わたしは子供がいませんが、母乳のようにあふれてくる才能を音にしている」なんて発言があったような、なかったような。

さて、このアルバムですが使用スタジオがあのThe Beatlesが使用していたロンドンのAbbey Road StudioとニューヨークのRecord Plant Studioなんです。そして、ファーストアルバム『Raspberries』はすべてアビーロードで収録されております。それだけ、Capitol側の期待も大きかったということですが、そんなに短期でロンドンに二回行くのかどうか。

個人的には、アビーロードでかなりの数を収録していて、それも次のアルバム(つまり『Fresh』)に生かすつもりがあったのではないかと思いますね。そして、曲の追加及び、より重厚さを出すためニューヨークで仕上げを行ったというところじゃないかと推測します。そうでなけりゃ、無理でしょう。

・担当楽器の変更について

エリックとデイヴの楽器交代ですが、ひとつは見栄え。やはりリードヴォーカルがセンターでギターを弾いているほうが絵になります。

実は、ラズベリーズの初期メンバーがベースで、この方が脱退後、ウォリーのギターを生かすためには、エリックがベースに回るしかないという状況で、デビューにこぎつけたのですね。もちろん、新たに加わったデイヴはリズムギターです。

とりあえず、このラインナップでデビューアルバムは収録したのもの、エリックがピアノに回るときはベースが不在となるため、再び楽器交換が行われたと推測します。

ラズベリーズはデビュー直後からアメリカのテレビ番組(ライヴ中継を含む)に出演しますが、現在YouTubeに上がっているライヴ映像では、エリックはリズムギターかピアノを担当し、デイヴがベースを担当するもののみを見ることができます。結局人前で演奏するときはこのアルバムのラインナップでやっていたと考えられます。

まあ、そうなると、『Fresh』の中の数曲はエリックがベースでデイヴがリズムギターである可能性はあるわけですが、アルバムクレジットはそこまで複雑にしたくなかったんでしょうね。

ちなみに、ラズベリーズの曲にはストリングスやパーカッション、ブラスも入っていたりしますが、このあたりの詳細なクレジットは記載されておりません。

・作者とリードヴォーカル

全10曲中エリックの作品が4曲。デイヴの作品が1曲。ウォリーの作品が1曲。エリックとデイヴの共作が4曲。

リードヴォーカルはエリックが6曲。デイヴが3曲。ウォリーが1曲となっています。

より、エリックの比重が高まっていったアルバムといえましょうか。また、デイヴの存在感も少し高まっていて、ウォリーがやや下がるという構成ですね。

アルバムからリリースされたシングルでもB面ではデイヴが2曲、ウォリーが1曲、リードヴォーカルを担当しています。

個人的には「I Wanna Be With You c/w Goin' Nowhere Tonight」のシングルを少ないお小遣いで買ったので、特にこちらには思い入れがありますね。まあ、当時は再生装置(簡易型ステレオのレコードプレイヤー)がひどかったのと、耳がまったく肥えてなかったので、エリックとデイヴの声の違いがわからなかったのですけどね。

アルバム全体としては「I Wanna Be With You」は別格として、おとなしめの曲が多いです。当時少なくとも日本では「Power Pop」という言葉はなく、ラズベリーズは「ソフトロック」なんて分類のされ方をしていましたね。まさに、ソフトロックのアルバムです。とはいえ、息の合ったコーラスは健在。

前振りが長くなりました。かつて取り上げた曲も多いので、今回はまだ取り上げていない名曲を紹介させていただきます。

 

シングルになっていない、「If You Change Your Mind」リマスター版でした。作者はエリックで、もちろんリードヴォーカルもエリックです。

こちら、エリックのソングライターとしての才能を知らしめる1曲なのではと思います。

歌詞の「♪ If you change your mind」から始まるサビのリフレイン、微妙に音を半音上げたり下げたりしておりますが、これがなんとも日本人(少なくともワタクシには)に響くメロディラインだと思います。なんつーか、心の琴線に触れるというか。いやあ、ホント、シングルにならなかったのが惜しいです。

こういうメロディ、国境や人種を超えて、あるいはジェンダーも超えて、響きませんかね。エリックの得意分野ですよね。泣きのメロディライン、それも、「大泣き」ではなくて、ちょっとだけ心が痛むみたいなね。人なら誰にでもあるようなね。

 

こちら、シングルチャートインを逃した「Drivin' Around」という曲です。作者はエリックとデイヴの共作で、リードヴォーカルはもちろんエリックです。

いやあ、モロにBeach Boys(ビーチボーイズ)風なというか、彼らをオマージュするような1曲。ラズベリーズの音楽的ルーツはかなりすそ野が広くて、ビートルズからThe Whoあたりのちょっと年長者のサウンドを少しづつ取り入れていますよね。

これ、いい意味、パクリではなく、ラズベリーズがやったPet Soundsってなところでしょうか。日本でいうならば、スペクトラムがアースをやってみたとか、BOX(杉真理、松尾清憲ら)がリバプールサウンドをやってみたみたいな…。それでも、みんなオリジナリティがありますよね。

「Drivin' Around」にはひとり低音のコーラスが入ります。実はこれより先にエリックのソロデビューアルバム『Eric Carmen』の中ジャケットの裏(輸入盤で未リマスター)に"This album is dedicated to Ricky and the Tooth"とあり、幼少期と思われるリッキーさんと通称「出っ歯」のモノクロ写真があるんです。

そして、この「Drivin' Around」のクレジットに小さく"That's teeth on bass vocal"とあるのを後日気が付きました。

んー、「出っ歯」とは誰だと思い、検索をかけてみると、エリックのチャットにたどり着き、"Jimmy Teeth Ienner"をあるのを見つけましたよ。ま、リッキーさんは誰だか分らなかったのですけど。

そんな映像も。

 

つうことで、出っ歯で低音コーラス担当はプロデューサーのジミー・アイナーであることが判明しました。ちなみに、ジミーさん、最後までラズベリーズをプロデュースした人です。

映像の最後はめちゃくちゃですけど、どうやらテレビ用に作られたドキュメントらしいです。検索かけると「Let's Pretend」でも同じスタジオでのヴォーカルとコーラスの収録風景が上がってます。

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ブレイクタイム。

「それにしても、いま世界で一生懸命ラズベリーズのこと調べているのはヒョウさんだけですね」By トーマスさん。

That's right。その通りで、話はまだまだ続きますですー。

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2024年7月22日 (月)

ラズベリーズの光と影(1)

かすてら音楽夜話Vol.193

お久しぶりでございます。

先日、またしてもミケポスカフェさんにお邪魔し、音楽談義をしてまいりました。まあ、ワタクシの一方的な思い込みをきいてもらって、そこにお相手が何らかの反応をしていただくことを繰り返して、話が深まったような強引な納得の仕方ではあるのですけど。

もちろん、お相手とはミケポスカフェのオーナーさんとトーマスさんであります。

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今回用意したのはこれらの音源です。

前回、思いっきりJ-POPに特化したので、洋楽で行ってみます。とはいえ、そうそうレア盤はないので、今年の3月にお亡くなりになったEric Carmen(エリック・カルメン)を偲びまして、Raspberries(ラズベリーズ)がリリースした4枚のアルバムから、思い入れと思い込みたっぷりな話をさせていただきました。

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毎回ありがとうございます。ホント、お食事が美味しいです。

こちら、夏にふさわしい「フルーツ冷麺」でございます。ホンマにさっぱりしていて、麺も十分な歯ごたえがありまして、普段は食さない1品、美味しゅうございました。

ほんなら、スタートいたしましょうか。でも、その前に予備知識を。

何度か書いていますが、メンバーから。

Eric Carmen(エリック・カルメン)1949年生まれ、故人
Wally Bryson(ウォリー・ブライソン)1949年生まれ
David Smalley(デヴィッド・スモーリー)1949年生まれ
Jim Bonfanti(ジム・ボンファンティ)1948年生まれ

一応、この4名がオリジナルメンバーです。

ラズベリーズはオハイオ州クリーブランドで結成されました。その母体となるバンドがクリーブランドのローカルバンド、The Choir(ザ・クワイア)とCyrus Erie(サイラス・エリー)です。

ザ・クワイアはローカルバンドながらルーレットレコードからリリースされた「It's Cold Outside」(1966年リリース、翌年再リリース)がビルボード68位のスマッシュヒットを持ち、クリーブランドでは最も人気のあるバンドでした。このバンドに、ウォリー、デイヴ、ジムが所属していました。ただ、このバンドのリーダーが抜けるとメンバーの入れ替わりが激しくなり、まずはウォリーが脱退します。一方のエリックはザ・クワイアのオーディションを受けたとも伝えられますが、メンバーに加わることはありませんでした。

そのエリックはのちにラズベリーズのメンバーとなるMichael McBride(マイケル・マクブライド)らが結成したサイラス・エリーに加入します(1967年)。そして、サイラス・エリーにはウォーリーが加入し、地元での人気を高めていくのです。

一方のザ・クワイアはデイヴがベトナムに徴兵のため分裂状態となりサイラス・エリーがクリーブランドのナンバーワンバンドにとって代わるのです。

しかし、サイラス・エリーもウォリーが脱退し、1970年頃にエリックとジムの間で新しいバンドについての話し合いが行われ、ラズベリーズの結成に至ったのでした。ただし、デイヴはまだベトナムに行っていたため、他の人物が加わっていました。しかし、その人物が脱退しベトナムから帰国したデイヴが加わり、デビューアルバム時のラインナップになっていきます。

デビューアルバム『Raspberries』

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リリースが1972年4月10日。

2曲のシングルがこのアルバムからカットされました。すなわち、デビューシングル「Don't Want To Say Goodbye」(Eric Carmen/Wally Bryson)がビルボードHot100(以下シングルチャート)で86位。セカンドシングル「Go All The Way」(Carmen/Bryson)がシングルチャート5位。なお、Cash Boxでのシングルチャートは4位、Record Worldのシングルチャートは3位です。1972年の年間チャートが33位ということですので、相当なヒット曲であると思います。

このアルバムでは、エリックとウォリーの共作が3曲。エリックの作品が2曲。ウォリーの曲が2曲。デイヴの曲が2曲となっています。

担当楽器のクレジットは、エリックがベースとピアノ。ウォリーがリードギター。デイヴがリズムギター。ジムがドラムスとなっています。

全員がコーラスを担当し、ジム以外の3人がリードヴォーカルを務めています。エリックのリードヴォーカルが4曲。ウォーリーが2曲。デイヴが2曲。あとの1曲はエリックとウォリー、ふたりのデュエットです。それが「Don't Want To Say Goodbye」です。

・なぜ、地味な曲がデビューシングルとなったのか

 

「Don't Want To Say Goodbye」でした。

日本版再発の紙ジャケット仕様にある、八木誠さんの解説によると、リリースは1972年2月とのことで、その時の邦題は「さよならは云わないで」となっていまして、アルバムリリース時には「さよならは言わないで」と改題されていました。

つまり、アルバムリリースよりも早い先行シングルだったのですね。

ラズベリーズはオハイオのローカルバンドではありましたが、エリックがプロデューサーであるJimmy Ienner(ジミー・アイナー、あるいはジミー・イエナー)にデモテープを送り、レコード会社の争奪戦の結果、Capitol(キャピトル)からデビューするのです。

ジミーにしてみればラズベリーズを売り出す計略みたいなものがあり、まずは様子見ということで、バンドの顔であるエリックとまだ発掘されてない名ギタリストのウォリーを前面に押し出して、この曲を敢えてシングルに選んだのではないかと思われます。英語版のwikiにも記述がありましたが、当の本人たちにもまさかこの曲で行くとは思ってもみなかったようです。しかも、5分という長さで、ラジオ局で流すには不向き。そして、曲の山場はラストのギターソロに伴うデュエットですので、かなり不利なんですが。カットされることもありますし。

ちなみに、B面はデイヴの「Rock & Roll Mama」(リードヴォーカルもデイヴ)がカップリングされました。

こちらのシングルジャケットはアルバムジャケットとほぼ同じです。写真はやや不鮮明ですが、間違いなく全員をプロデュースするものであると思います。バンドとしては全員が22~24歳という若さで、ビジュアルからしてもターゲットはティーンエイジャーの女子だったはずです。

その後、アルバムがリリースされビルボードHot200(アルバムチャート)で51位となりました。ここでも、キャピトルはジャケットにラズベリーの香りの出るステッカーを貼り、売り出しに力を入れるのでした。ちなみに、日本版再発の紙ジャケット仕様CDにもステッカーが封入されています。

・計画通りにヒットするものの…

 

セカンドシングル、「Go All The Way」でした。リリースは1972年7月です。

こちら、ライヴ映像を持ってきました。なんといっても、ウォリーのギタープレイを見ていただきたいもので。

ウォリーは12弦と6弦がひとつに収まったいわゆるダブルネックのギブソンでプレイしています。デビューシングルと打って変わって、激しい曲調です。それでも中間部はエリックの得意とするバラード調で、うまく収まった1曲ですね。こちら、ラズベリーズ唯一のGold認定された曲です。

アルバムのクレジットではエリックとウォリーの共作となってますが、なぜか英語版wikiとラズベリーズ公式サイトではエリックだけの曲となっています。

個人的に考えますと、イントロとサビはウォリーが考え、中間部はエリックが作ったのではないかと思いますが。ただ、ウォリーがひとりで作った曲はそれほどハード寄りなロックではなく、結構おとなしい曲が多いのですね。ウォリーとしてはギターのフレーズに独特の味を出すという人で、これ以降の曲でも様々な自分以外に弾けないフレーズを作り出していきました。そのためのコードも考えたといいます。

そして、この曲ではこれまでのロックバンドになかった美しいコーラスも披露してます。同じアメリカのバンドで、ほぼ同時期のデビュー(それでもラズベリーズよりややデビューが遅い)であるEaglesにも近いものがあります。ですが、この頃のイーグルスはどちらかというとカントリーロックに近く、ラズベリーズのようなハードな演奏ではありませんでした。

この曲を含むラズベリーズのコーラスをお聴きになったオーナーさんとトーマスさん、「なんか似ていると思いましたが、Queenっぽいですね」とのご感想でした。「でも、クイーンのデビューは1973年」「じゃあ、クイーンが影響を受けている可能性はありますね」とのこと。確かにクイーンはコーラスに長けてますが、多重録音も使ってます。初期のラズベリーズはライヴでも全員のポジションにマイクがあるんですね。

ちなみに、こちらのカップリングはウォリーの作った「With You In My Life」(リードヴォーカルもウォリー)でした。

・キャピトルまたはジミーの戦略

 

エリックの曲でもちろんリードヴォーカルも担当する、「Waiting」でした。

その後のソロデビュー曲、「All By Myself」にも通じるようなエリックのバラードです。エリックのピアノとストリングスが入りますが、なんと、その他の楽器はなく、メンバーのコーラスもなし。

これ、バンドでありでしょうか。まあ、キャリアの長いバンドではヴォーカルの一切入らないインストナンバーがあったり、逆にヴォーカリストのみでほかのメンバーがかかわらない曲もあるでしょうが、デビューアルバムですよ。

もちろん、新人バンドでエリックが自らこれを入れようということはないと思います。おそらくは、エリックがジミーに送ったデモの中にこの曲か元になった曲があって、プロデューサーであるジミーがとりあえず録音だけしてみて、これをキャピトル側がアルバムに入れてしまったのではないかと思います。いや、入れてしまったというよりは意図的に入れた…後年のエリックのソロをもしかしたら意識していたものだったのかもしれませんね。

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さて、ここらでいったんブレイクしましょうか。

タコのサラダ…でしたよね…美味しゅうございます。

話は尽きず続編に続きます。

あー、今回だいぶ準備がかかってブランクがあいてしまいました。一応、ネタは尽きてはおりません。とはいえ、ヒントは欲しいですので、コメントやご意見ください。よろしくお願いします。また、下記のバナーもクリックお願いします。

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