ラズベリーズの光と影(2)
かすてら音楽夜話Vol.194
ミケポスカフェでの音楽談義、ラズベリーズの2回目です。
つうことで、セカンドアルバム『Fresh』を取り上げます。売れたということもありますが、やはり最もラズベリーズらしいアルバムです。それに、ここでファンになったということもありますし、一番好きなアルバムですね。
リリースが1972年11月。ビルボードHot200(アルバムチャート)で36位。彼らのアルバムで最も最上位にチャートインした作品となっています。
アルバムからは3枚のシングルがリリースされ、「I Wanna Be With You」(c/w「Goin' Nowhere Tonigt」)がビルボードHot100(シングルチャート)で16位。「Drivin' Around」(c/w「Might As Well」)はチャートインせず。「Let's Pretend」(c/w「Every Way I Can」)がシングルチャートで35位にチャートインしております。
また、このアルバムから担当楽器をエリックとデイヴの間で変更しました。つまり、エリックがベースからリズムギターへ。デイヴがリズムギターからベースへとなってます。
・短いスパンでのリリース
デビューアルバムが1972年の4月リリース。シングル「Go All The Way」が同年7月のリリースで、そんな短期間でフルアルバムを出せるのかという疑問。
まあ、当時はいい意味での音源の乱発。売れるものはどんどんやっちまおうという傾向があるにはあったと思います。これは邦楽アーティストの話ですが、ユーミンが半年に1枚アルバムを出していたのは、「わたしは子供がいませんが、母乳のようにあふれてくる才能を音にしている」なんて発言があったような、なかったような。
さて、このアルバムですが使用スタジオがあのThe Beatlesが使用していたロンドンのAbbey Road StudioとニューヨークのRecord Plant Studioなんです。そして、ファーストアルバム『Raspberries』はすべてアビーロードで収録されております。それだけ、Capitol側の期待も大きかったということですが、そんなに短期でロンドンに二回行くのかどうか。
個人的には、アビーロードでかなりの数を収録していて、それも次のアルバム(つまり『Fresh』)に生かすつもりがあったのではないかと思いますね。そして、曲の追加及び、より重厚さを出すためニューヨークで仕上げを行ったというところじゃないかと推測します。そうでなけりゃ、無理でしょう。
・担当楽器の変更について
エリックとデイヴの楽器交代ですが、ひとつは見栄え。やはりリードヴォーカルがセンターでギターを弾いているほうが絵になります。
実は、ラズベリーズの初期メンバーがベースで、この方が脱退後、ウォリーのギターを生かすためには、エリックがベースに回るしかないという状況で、デビューにこぎつけたのですね。もちろん、新たに加わったデイヴはリズムギターです。
とりあえず、このラインナップでデビューアルバムは収録したのもの、エリックがピアノに回るときはベースが不在となるため、再び楽器交換が行われたと推測します。
ラズベリーズはデビュー直後からアメリカのテレビ番組(ライヴ中継を含む)に出演しますが、現在YouTubeに上がっているライヴ映像では、エリックはリズムギターかピアノを担当し、デイヴがベースを担当するもののみを見ることができます。結局人前で演奏するときはこのアルバムのラインナップでやっていたと考えられます。
まあ、そうなると、『Fresh』の中の数曲はエリックがベースでデイヴがリズムギターである可能性はあるわけですが、アルバムクレジットはそこまで複雑にしたくなかったんでしょうね。
ちなみに、ラズベリーズの曲にはストリングスやパーカッション、ブラスも入っていたりしますが、このあたりの詳細なクレジットは記載されておりません。
・作者とリードヴォーカル
全10曲中エリックの作品が4曲。デイヴの作品が1曲。ウォリーの作品が1曲。エリックとデイヴの共作が4曲。
リードヴォーカルはエリックが6曲。デイヴが3曲。ウォリーが1曲となっています。
より、エリックの比重が高まっていったアルバムといえましょうか。また、デイヴの存在感も少し高まっていて、ウォリーがやや下がるという構成ですね。
アルバムからリリースされたシングルでもB面ではデイヴが2曲、ウォリーが1曲、リードヴォーカルを担当しています。
個人的には「I Wanna Be With You c/w Goin' Nowhere Tonight」のシングルを少ないお小遣いで買ったので、特にこちらには思い入れがありますね。まあ、当時は再生装置(簡易型ステレオのレコードプレイヤー)がひどかったのと、耳がまったく肥えてなかったので、エリックとデイヴの声の違いがわからなかったのですけどね。
アルバム全体としては「I Wanna Be With You」は別格として、おとなしめの曲が多いです。当時少なくとも日本では「Power Pop」という言葉はなく、ラズベリーズは「ソフトロック」なんて分類のされ方をしていましたね。まさに、ソフトロックのアルバムです。とはいえ、息の合ったコーラスは健在。
前振りが長くなりました。かつて取り上げた曲も多いので、今回はまだ取り上げていない名曲を紹介させていただきます。
シングルになっていない、「If You Change Your Mind」リマスター版でした。作者はエリックで、もちろんリードヴォーカルもエリックです。
こちら、エリックのソングライターとしての才能を知らしめる1曲なのではと思います。
歌詞の「♪ If you change your mind」から始まるサビのリフレイン、微妙に音を半音上げたり下げたりしておりますが、これがなんとも日本人(少なくともワタクシには)に響くメロディラインだと思います。なんつーか、心の琴線に触れるというか。いやあ、ホント、シングルにならなかったのが惜しいです。
こういうメロディ、国境や人種を超えて、あるいはジェンダーも超えて、響きませんかね。エリックの得意分野ですよね。泣きのメロディライン、それも、「大泣き」ではなくて、ちょっとだけ心が痛むみたいなね。人なら誰にでもあるようなね。
こちら、シングルチャートインを逃した「Drivin' Around」という曲です。作者はエリックとデイヴの共作で、リードヴォーカルはもちろんエリックです。
いやあ、モロにBeach Boys(ビーチボーイズ)風なというか、彼らをオマージュするような1曲。ラズベリーズの音楽的ルーツはかなりすそ野が広くて、ビートルズからThe Whoあたりのちょっと年長者のサウンドを少しづつ取り入れていますよね。
これ、いい意味、パクリではなく、ラズベリーズがやったPet Soundsってなところでしょうか。日本でいうならば、スペクトラムがアースをやってみたとか、BOX(杉真理、松尾清憲ら)がリバプールサウンドをやってみたみたいな…。それでも、みんなオリジナリティがありますよね。
「Drivin' Around」にはひとり低音のコーラスが入ります。実はこれより先にエリックのソロデビューアルバム『Eric Carmen』の中ジャケットの裏(輸入盤で未リマスター)に"This album is dedicated to Ricky and the Tooth"とあり、幼少期と思われるリッキーさんと通称「出っ歯」のモノクロ写真があるんです。
そして、この「Drivin' Around」のクレジットに小さく"That's teeth on bass vocal"とあるのを後日気が付きました。
んー、「出っ歯」とは誰だと思い、検索をかけてみると、エリックのチャットにたどり着き、"Jimmy Teeth Ienner"をあるのを見つけましたよ。ま、リッキーさんは誰だか分らなかったのですけど。
そんな映像も。
つうことで、出っ歯で低音コーラス担当はプロデューサーのジミー・アイナーであることが判明しました。ちなみに、ジミーさん、最後までラズベリーズをプロデュースした人です。
映像の最後はめちゃくちゃですけど、どうやらテレビ用に作られたドキュメントらしいです。検索かけると「Let's Pretend」でも同じスタジオでのヴォーカルとコーラスの収録風景が上がってます。
ブレイクタイム。
「それにしても、いま世界で一生懸命ラズベリーズのこと調べているのはヒョウさんだけですね」By トーマスさん。
That's right。その通りで、話はまだまだ続きますですー。
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