クリッシー姐さんの壮絶な人生 and More
かすてら音楽夜話Vol.199
約1か月のご無沙汰でございます。
プレ200回となります今回、取り上げるのはなかなかに壮絶な人生を送ってきたChrissie Hynde(クリッシー・ハインド)でございます。
画像の左の女性になります。
クリッシーはThe Pretenders(プリテンダーズ)のリードヴォーカル、ギタリストとして1979年1月にイギリスでデビューします。ですが、彼女はアメリカ人で、1951年にオハイオ州アクロンで生まれました。
同州のケント州立大学に通っていたとのことです。また、様々なバンドを見るためにクリーブランドに出かけたとも語っているので、ラズベリーズやエリック・カルメンをもちろん知っていたでしょう。ですが、音楽性が合わなかったのでしょうね。ちなみに、ラズベリーズのメンバーとは2歳違い。
あくまでもやりたかったのは、「女だてらに」本格的なロックだったのですね。
そして彼女は1973年5月にロンドンに移住します。ロンドンでバンドを結成したかったようですが、なかなかうまくいかなかったようです。そのため、職を転々とするのですが、一時期、音楽雑誌New Musical Express(NME)に数か月在籍していたことがあり、のちにプリテンダーズでの紹介時に「NMEの記者だった」と伝えられたりしました。いかにも、有能な常勤ライターでもあるかのように。このあたりは日本まで詳細な情報が伝わってきていないのですが、インターネットなど存在しない時代ですので、まあ仕方のないことかと。
その後、フランスに渡ったり、再びオハイオに戻ったりしましたが、最終的にロンドンに舞い戻ることになります。ロンドンではマルコム・マクラーレンが経営する衣料品店(店名が「Sex」)にも努めていたことがあります。マルコム・マクラーレンはSex Pistols(セックス・ピストルズ)のマネージャーでもあり、このあたりから業界に踏み入れていったと考えられます。
さて、ロンドンでは労働許可証を得るために、ピストルズのメンバー、ジョニー・ロットン(のちのジョン・ライドン)やシド・ヴィシャスと(偽装)結婚しようと登記所まで出向いたものの、登記所が休みであったり、シド・ヴィシャスの出廷で行けなかったりしたという、エピソードもあります。
5年の試行錯誤を経てプリテンダーズの結成に至ります。同じ頃、パンクロック一辺倒にも思えたイギリスから、新しい傾向を持ったバンドがデビューしましたが、「ニューウェイブ」なんていわれていましたね。プリテンダーズもそのひとつに入るかと思います。
メンバーはギターのJames "Honeyman" Scott(ジェームス・ハニーマン・スコット、画像の左から2番目)とベースのPete Farndon(ピート・ファーンドン、画像の右)、ドラムのMartin Chembers(マーティン・チェンバース、画像の右から2番目)をクリッシーが集め、デビューします。すでにクリッシーは27歳になっていた頃です。
1979年11月のリリース、「Brass In Pocket」でした。のちにデビューアルバム『Pretenders』(1980年1月リリース)に収録された3枚目のシングルです。
この曲で初の全英チャート1位を獲得しました(1980年1月、80年代で最初のナンバーワンシングル)。Billboard Hot 100(シングルチャート)では14位でした。
ちなみに「Brass」とは「小銭」「コイン」といったイギリス的表現です。アメリカ人のクリッシーができるだけイギリスに溶け込もうとした表現なんでしょうかね。
作者はクリッシーとジェームス・ハニーマン・スコットです。プロモーションビデオが登場したころのもので、メンバーも演技してますね。クリッシーのウエイトレス(しかも、メイド服っぽい)というのも、結構怖いものがありますが。この頃のプリテンダーズのアルバムジャケットなどの画像、かなりひどいものがありまして、デビューアルバムのジャケ写でのクリッシーは濃いアイシャドーにマスカラ、相当なおばはん風に写っております。
このプロモビデオもそれに近いものがあります。セカンドアルバム『Pretenders II』(1981年9月リリース)のジャケ写(冒頭の画像)はちょっとグレードアップしたビジュアルですが。
さて、ファーストアルバムからはThe Kinks(キンクス)のカバー、「Stop Your Sobbing」と「Kid」がリリースされますが、どちらかというと本来クリッシーが目指していた本格的なロックではなく、ポップ寄りの曲です。「Brass In Pocket」も同じですね。
とはいえ、「Tattooed Love Boys」やインスト曲の「Space Inveder」(時代ですねえ)などは正統なロックであると思います。
さて、プリテンダーズですが、ファーンドンの薬物乱用がエスカレートしたため、1982年6月に彼を解雇します。ファーンドンはドラッグでハイになるのと正反対に、どんどんと沈み込んでいくようなタイプだったらしく、演奏にも悪影響が出ていたといわれます。
その2日後、なんとギターのスコットがやはり薬物を原因とする心不全で亡くなってしまいます。その1年後、ファーンドンも浴室で溺死体で発見されます。こちらも、薬物が関係してます。
これで、残されたメンバーはクリッシーとチェンバースのみになり、彼らの落胆は手に取るようにわかりますね。
実はこの時期クリッシーはキンクスのRay Davies(レイ・デイヴィス「Stop Your Sobbing」の作者)の子供を妊娠していて、それでもチェンバースと新曲のレコーディングに臨むのでした。
それが、こちら、「Back On The Chain Gang」(1982年9月リリース)です。
ビルボードシングルチャートで自己最高の5位を記録しています。この時はギターとベースに新メンバーを迎えましたが、この曲が含まれたサードアルバム『Learning To Crawl』(1984年1月リリース)では、曲によってギターとベースは違うミュージシャンを起用しています。
この映像はプロモーションビデオになりますが、出演しているのはクリッシーとチェンバースのみです。
ちなみに、クリッシーには娘が生まれますが、レイ・デイビスとの関係は悪化しており、結婚には至りませんでした。
女って、本当にすごい。強い!これだけ傷口から血が出ているのをまじまじと眺めながら、それを歌にしてしまえる……それも、歌曲として見事な完成品にして、濁りのない声で爽快に歌ってしまえるなんて、やっぱり女性には生理とか出産とか、生命を産み出す作業としての"前向きな血なま臭さ"が、日常の中に存在しているからなんだろうか……と、妙なことまで考えてしまう。
(アルバム『Lerning To Crawl』の湯川れい子氏の解説より、抜粋)
そして、4枚目のアルバム『Get Close』(1986年10月リリース)ではチェンバースが意欲の低下(二人のメンバーを失うという喪失感が大きかったようです)により、バンドを去ってしまいます。ついにオリジナルメンバーはクリッシーだけとなります。
その中でのヒット曲がこちら。
1986年9月リリースの「Don't Get Me Wrong」でした。ビルボードでは10位。
アルバムリリース時にはギター、Robbie McIntosh(ロビー・マッキントッシュ)、ベース、T.M.Stevens(TMスティーブンス)、ドラム、Blair Cunningham(ブレア・カニンガム)というラインナップですが、この曲ではドラムはSteve Jordan(スティーブ・ジョーダン)が叩いてます。
スティーブ・ジョーダンはチャーリー・ワッツが亡くなった後のストーンズのバックアップメンバーですね。
この曲は現在でもテレ東、TVK、TOKYO MXなどの番組で使われることが多いです。
その後のプリテンダーズは何度もメンバーを変え、クリッシーひとりでプリテンダーズ名義のアルバムを出したこともあります。現在は、マーティン・チェンバースも復帰したようですが。
2020年代に入っても活躍している、ニューウェイブ勢はプリテンダーズだけといっても過言ではありません。いつまでも、イカしたナンバーを我々に届けていただきたいものです。
(2024/11/08:本文訂正および追記いたしました。)
<星になったふたり>
つい最近、お亡くなりになった方がおります。
Quincy Jones(クインシー・ジョーンズ)といえば、「We Are The World」やマイケルの『Thriller』や『Bad』のプロデュースで知られるところですが、ワタクシ的にはこの曲で追悼したいと思います。
「Theme Form "Ironside"」でした。
アメリカの刑事ドラマ、「鬼警部アイアンサイド」のテーマ曲ですが、「ウィークエンダー」(わたしゃほぼ見てませんが、曲だけは耳にこびりつていました)などでも有名です。
クインシーさんですが、女性遍歴もかなりのもので、あのイヴァンカ・トランプと交際していたという話も英語版のwikiには書いてありますね。
「愛のコリーダ」とか「Back On The Block」なんてのもあるんですが。
そして、楳図かずおさん。
少年サンデーで連載されていた「おろち」は恐々読んでおりました。
「まことちゃん」がやたらと取り上げられますが、これは「アゲイン」という作品のスピンオフなんですよね。
おふたりとも安らかに。
かすてら音楽夜話、次回は200回を迎えます。とうとう来たかという感じです。下記のバナーもクリックしてくださいませ。
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コメント
プリテンダーズ懐かしいです。ニューウェイブの時代ですね。好きなバンドだったのでよく聴いていたはずですが、意外と曲は覚えていないです。レコードは買わなかったと思います。今でもMTVなどで見かけるので、元気でバンドは続けているようですね。200回目、どんなアーティストが出てくるか、楽しみです。
投稿: アニタツ | 2024年11月 8日 (金) 11時38分
アニタツさん
この時代、手に入れたい音源は数限りなくありましたが、いかんせん、資金不足ですべては手に入れることができませんでした。
プリテンダーズもそのひとつです。
一番最初に手に入れたプリテンダーズのアルバムは『Lerning To Crawl』です。
以降は徐々に買い足していった感じです。
『Get Close』のあとの3枚くらいは買いましたが、最近のものはありません。
「ニューウェイブ」という言葉、まさにその通りですね。
記事を書くにあたって英語版のwikiを読んでいて、「New Wave」という単語は出てこなかったような。あとで、記事に追記しておきます。
それにしても、ニューウェイブ世代で生き残っているのはプリテンダーズくらいですね。
投稿: ヒョウちゃん | 2024年11月 8日 (金) 19時23分