ボギーに憧れた男たち
かすてら音楽夜話Vol.228
ハンフリー・ボガート(Humphrey Bogart、1899-1957)という俳優がおりました。
一見、冴えない中年男なんですが、ギャング映画~フィルムノワール映画~ハードボイルド映画などを通して、ある意味カリスマ的存在であります。晩年は演技派に転じ、「アフリカの女王」でアカデミー賞(主演男優賞)を獲得しております。
映画「カサブランカ」での「君の瞳に乾杯」など、キザでクサいセリフもなんのそので、多くのフォロワーを生んだことで知られております。
それは、音楽界でもわずかではありますが、フォロワーが存在しました。愛称はボギーです。
お聴きいただいたのは、Bertie Higgins(バーティ・ヒギンズ、アメリカ人)の「Casablanca」でした。
この曲はヒギンズのデビューアルバム『Just Another Day In Paradise』(1982年)収録の曲です。作者はヒギンズとSonny Limbo(ソニー・リンボ)、John Healy(ジョン・ヒーリー)の共作です。リンボは音楽プロデューサーで、このアルバムの共同プロデューサーの一人です。ヒーリーはアルバムのキーボード奏者ですね。
こちら、アメリカではシングルカットされず、チャートには入っておりません。しかし、日本ではシングルカットされ、オリコンで13位を記録しています。(注:あくまでも英語版のwikiを参考にしたものですので、もしかすると洋楽チャートだった可能性はあります。『Just Another Day In Paradise』もオリコンアルバムチャート4位という記述も…)
とはいえ、シングルになるくらいですので、かなりヒットしたことは間違いありません。なぜならば…。
あの郷ひろみもカバーしております。タイトルは「哀愁のカサブランカ」(1982年)です。
ちなみに、訳詞:山川啓介 編曲:若草恵というクレジットです。
これ、ヒロミ・ゴーが目を付けたわけではなく、ニッポン放送の企画で、バーティ・ヒギンズの「カサブランカ」を日本人で歌うにふさわしい人を募集したところ、投票(当時のことですので、ハガキ投函によるものでしょう)でヒロミ・ゴーに決まったのだそうです。その際に日本語詞もリスナーから募集したそうですが、レコード化される段階で、プロのお仕事に置き換わったのだそうで。
それにしても、仕事が早いですよ。同じ年ですし。そして、こちらのシングルはオリコン2位となっております。それに乗じてか、郷ひろみ側も同タイトルのアルバムを出し、こちらもオリコン2位となりました。
ただ、タイトルに「哀愁の~」がついちゃうし、ヒロミ・ゴーですから、オリジナルのバーティ・ヒギンズのテイストとはまるで異なるねちっこそうな曲に仕上がりましたね。
なお、YouTubeの映像は違法アップロードっぽいので、別のものもお聴きください。
てなことで、探してきました。坂本冬美の「哀愁のカサブランカ」でした。
カバーアルバム『Love Songs II~ずっとあなたが好きでした』収録になります。映像は坂本冬美の公式チャンネルからお借りしたもの。
ちょっとだけ、こぶしも回っているんですが、郷ひろみより素直な感じの歌いまわしです。惜しいことに山川啓介の詞を使っているのですが、できたらオリジナルの英語でやってほしかった。
ちなみに、坂本さん、忌野清志郎、細野晴臣と組んだHISというユニットもあるので、郷ひろみよりは間口が広くて、ただの演歌歌手ではないとワタクシは評価いたします。
さて、バーティ・ヒギンズに話を戻しますと、アルバム『Just Another Day In Paradise』からの先行シングルが1981年にリリースされております。
それが、この曲、「Key Largo」です。作者はヒギンズとリンボになります。
こちら、ビルボードHot 100(シングルチャート)で8位を記録し、年間チャートでも17位と大健闘。また、ビルボードのアダルトコンテンポラリーチャートでは1位を獲得している、デビュー曲になります。
Key Largo(キーラーゴ)というのはフロリダ州にある島で、本土とは橋でつながっています。そして、こちらもハンフリー・ボガートの主演映画「キーラーゴ」の舞台でした。時は橋が通行不能になっていた時代、キーラーゴのホテルを舞台にハリケーンで隔絶された島を舞台にギャングと戦うボギーが活躍した映画です。
まあ、日本のボギーのフォロワーには「キーラーゴ」よりも「カサブランカ」が響いたんでしょうね。ちなみに、ヒギンズの「カサブランカ」の歌詞を読み解くと、ドライブインシアターで映画「カサブランカ」を見て、君(主演女優のイングリッド・バーグマン)に恋をしたという内容のようです。
そして、"a kiss is still a kiss in Casablanca”という歌詞も出てくるんですが、劇中でピアノ弾きのサムが歌う「As Time Goes By」にも同じ文句が登場するんですよね。これは、バーティ・ヒギンズも相当ボギーに入れ込んでいると思われます。また、ボギーに入れ込んでいる人も、このフレーズが響いたんじゃないすかね。
映画「カサブランカ」の劇中でサムが歌う「As Time Goes By」でした。
◆◆◆
沢田研二にも「カサブランカダンディ」という曲があります。
映像は1番までですが、これでご勘弁を。
作詞:阿久悠 作曲:大野克夫。1979年リリースで、オリコン5位。日本レコード大賞金賞でございます。ちなみに、金賞ということは大賞にノミネートされた曲ですね。この時の大賞受賞曲はジュディ・オングの「魅せられて」でした。
冒頭の歌詞がもろ現代ではコンプライアンスに引っ掛かりますけど。ま、当時は誰も何にも感じなかったはずです。
ちなみに、ハンフリー・ボガートは役の上でも女性を張り倒すようなことはなかったと思うんですけどね。阿久悠さんやっちまいましたね。ただ、フィルムノワール時代の雰囲気は出しているような。
阿久悠&大野克夫コンビで、「時の過行くままに」(1975年)という曲もあって、こちらはオリコン1位。もちろん、映画「カサブランカ」で前述のサムが歌う「As Time Goes By」を意識したものでしょう。
また、のちの1977年の「勝手にしやがれ」(オリコン1位)はボギーというよりは、フランス映画「勝手にしやがれ」からいただいたものですね。
阿久悠という人、コピーライターであったし、「ジュリーをボギー風に演じたいから、それ風の歌詞を書いて…」なんて、おそらくはナベプロ側からの要望でしょうけど、そういうことにも対応できた人でしたね。
他にも、ズー・ニー・ヴーの「ひとりの悲しみ」を尾崎紀世彦の「また逢う日まで」に書き換えるとか、相当融通の利いた方だったんでしょう。
阿久悠氏に限らず、ボギーにオマージュを込めた人の中に、演劇・映画人のウディ・アレンがおります。1972年の映画(もともとはアレンの戯曲)に「Play It Again, Sam」(邦題「ボギー!俺も男だ」)という作品もあります。
また、漫画家の望月三起也氏に「サムライ教師ボギー」という作品もありました。
まだまだありそうですが、アレンも望月氏も1930年代生まれですね。
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